アレクサンドル・デュマ(山内義雄 訳)「モンテ・クリスト伯」全7巻 岩波書店(文庫/岩波文庫)

巌窟王」と言う題名でも知られるデュマ(ペール)の代表作の一つ。某アニメを観た事をきっかけに再読した。
無実の罪で獄に繋がれ、死んだと思われていた男の復讐譚、と言う梗概は人口に膾炙していると思うが、再読してみて、大きな罪と復讐を生んだきっかけが本当に些細な「いたずら」に近いものであり、小さな悪意が偶然と時代の趨勢がそれを拡大した、と言う流れに驚いた。一つの要素が欠けていれば皆ささやかな幸せと小さな不満で世を送ったのかもしれない、と思わせるのが名作の名作たる所以なのだろうか。また、復讐される側にも地位もあれば名誉もあり、また家族もあって、復讐が一個人へのものにとどまらず、次の悲劇を生むと言うのも興味深い。実際、罪のないものも被害者となっており、流石の復讐鬼も戸惑っているのも興味深い。他方、かつての許婚者、メルセデスに対しては些かあっさりし過ぎな気がしないでもないが、泥沼に陥らないと言うのも作者の配慮というものかもしれない。
日本語版では文庫七冊にもわたる長編でありながら「長い」とか「重い」と言う感じがなく、すいすい読める。元々は新聞連載のせいもあろうが、章ごとに盛り上げ所があり、テンポが良いのも好印象である。原書で読めればなお良いとは思うが、入手とフランス語の困難さを考えると非常に難しい。邦訳は少年向けの抄訳もあるが、時間の余裕があれば、完訳を読む事を薦めたい所である。