北森鴻「なぜ絵版師に頼まなかったのか」 光文社(文庫/光文社文庫)

葛城冬馬は明治生まれだが厳格な祖父により髷のまま育てられた。その髷が気に入られ、東京医学校のベルツ教授の所で働く事となったが、そこで出会う奇妙な事件に関わる事となり…と言う話。
明治を舞台にした推理小説ではあるが、お雇い外人たちを中心とした実在する著名な人々を配して、その中で成長する少年の姿と時代の変遷を描く連作短編集となっている。話が進むにつれて徐々に暗い世相も見え隠れするけれど、ユーモラスな外人たちや日本人、その感覚差と言うかなんともいえないズレがコミカルで読んでいて楽しい本である。恐らくは冬馬の成長に合わせ色々な展開があったのかもしれないが、作者物故の為この一冊で終わっているのがいかにも惜しいと思った本である。