西村京太郎「夜間飛行殺人事件」 光文社(文庫/光文社文庫)

「ミリオンセラーシリーズ」の第三弾。新婚旅行で北海道に向かう十津川警部と直子夫人が出会った新婚夫妻が謎の失踪を遂げた。調査を進めると同じように失踪した夫妻が…と言う話。西村京太郎作品であるが、これに列車は出てこない。社会派推理ものも書いていたからその影響が強い。そういう意味で割とマイナーな部類かと思っていたが100万部を超えていたとは意外。
正直な所、この作品は犯人の行動と動機があまりにも独善的で、「正義をやってる自分に酔ってる」感じがするのでいまいちな印象を初読の時から持っていた。歴史や政治情勢の認識も薄っぺらくて眉をひそめたくなるが、これは作者が本気でそう思っていたのか、敢えて犯人の行動を(犯人自身が)正当化するためこのように言わせているのか分からずに迷ってしまう。後者だとすれば作者に感心するところだが…。
新婚旅行先が北海道でとても人気、と言うのが例によって時代を感じさせるのと、謎の失踪とその捜査は割と面白いと思う。犯人の行動原理が心情的に理解しやすければ…と少々残念に思った作品であった。