ルイス・ベイヤード「陸軍士官学校の死」上・下巻 東京創元社(文庫/創元推理文庫)

引退した元警官ガス・ランダーは陸軍士官学校の校長からの依頼で事件の捜査をする事になる。士官候補生が首つり自殺した上、その死体から心臓が奪われたのだ。ランダーは捜査の過程で一人の協力者を得る。彼の名はエドガー・アラン・ポーといった…と言う話。
心臓が奪われた死体、と言うただの猟奇事件かと思いきや、続く殺人、怪しげな団体、謎めいた女性等々、かなりの「本格」ものといえる。ほんの独り言や日常描写と思える部分が後になって効いてくる、という展開もなかなかよい。二重三重に仕掛けがあり、最後の最後まで楽しめた。もう少し衒学的趣味をちりばめれば日本の「新本格」が好きな人達にも結構受けそうだ、と思う。
それはそれとして、上下巻なのでそれなりに長く、筋もなかなか複雑ではあるが中々読みやすいのは結構なのだが、「The Pale Blue Eyes」をどう訳したら「陸軍士官学校の死」となるのか。原題はそれなりに意味を持ってると思うのだが、「ほの蒼き瞳」では推理小説と分かりにくいから「分かりやすい」題名にしたのだろうか?これはこれで謎である。