山岡荘八「徳川家康」全26巻 講談社(文庫/山岡荘八歴史文庫)

かつて「家康ブーム」を巻き起こし、NHK大河ドラマの原作にもなった山岡荘八の代表作。
ネット巡回で見つけたとあるサイトを見たのがきっかけで20年ぶりに再読。
弱小勢力の跡取りとして生まれ、物心つかぬ内から人質となり、桶狭間をきっかけに独立、信長・秀吉の後を受け天下を取った徳川家康の生涯を26巻にわたり描く大河小説である。
主人公である家康は堪忍に堪忍を重ねる場面は多く、後半生は老人にありがちが頑迷さを見せつつも泰平の世を求める理想家としての描写がされており、家康自身やの家臣団たる三河武士、及び家康寄りの人々には好意的な描写が多いものの、彼らは絶対善ではなく、過ちも犯せば怒りもする「人間」であり、「美化されすぎた」と言う印象は無い。合戦場面での血沸き肉踊る、と言う感じは余り無く、重要な人物が次の章にはあっさり退場したり、所々淡白な印象もあるが人と人のやりとりが面白い。
この作品は「歴史」というよりは「人物」を描くのが主眼ではなかろうかと思う。それも、家康自身の行動や言動を直接描くよりも、周りの人々を描く事で家康とその時代を描くという雰囲気が強い。言い換えると、「外側から描写する」ということ。このことは再読して気が付いた。
「全26巻」と聞くと読むのを躊躇するが、読み始めるとすいすいと読める。私は夏であったが、秋の夜長にじっくり読むのも良いと思う作品である。